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2020.02.26

コロナ対策、ベトナムと日本の明暗が分かれた早さと理由:ネルソン水嶋のベトナムコラム

コロナ対策、日本とベトナムで分かれた明暗。

世界でコロナウィルスが猛威を振るっている。

感染源は中国・武漢の海鮮市場からとされ…という情報はいまさらすぎるのでもうしないが、個人的には「ツイてない」という一言に尽きる。私はふだんからリモートワーク中心に生計を立てているにも関わらず、このタイミングで一カ月間に渡り日本に、しかも国内一、世界トップクラスの人口密度を誇る東京都内にいる。いてしまったのだから。

私には私の事情があるし、今は今で一期一会もあるのでやむなし。それはそうと、今回の世界コロナ大狂想曲を見ていて印象づけられたものが、日本とベトナムで別れた明暗だ

 

ベトナムによるコロナ対策のスピード感

本件でベトナムがとった動きは早かったし、なにより厳しかった。そこでまず、日本語ベトナムニュースサイト「Vietjo」さんより時系列で記事を紹介したい。私から言葉を足さなくとも、記事タイトルを斜め読みするだけでその早さと厳しさが伝わるはずだ。強調箇所を太字にした。

 

1/30 ベトナム、中国人への観光ビザ発給を一時停止

2/3 新型コロナウイルス、ベトナム国内の感染者8人に―首相が流行を発表

2/5 ハノイ:新型コロナ感染拡大防止で歩行者天国中止

2/6 ホーチミン:12歳少年、お年玉でマスクを無料配布

2/6 ホイアン:中国人観光客の差別を厳格処分、営業停止も

2/7 ホーチミン:新型コロナで32万人がマスク着用必須、接客業など

2/7 保健省、新型コロナ感染者の治療費を全額無料に

2/10 ベトナムの衛生研究所、新型コロナウイルスの培養に成功 ※ワクチン開発に必須の工程

2/11 ホーチミン、スーパーなどでのマスク無料配布を検討

2/11 ベトナム:新型コロナウイルス検査キットを近く量産開始

2/11 保健省、新型コロナウイルスに関する情報サイト開設

2/11 新型肺炎で打撃、ベトナム全土で「農家支援運動」が活発化

2/12 ホーチミン:新型コロナ感染疑い例ゼロに

 

 

まだまだあるが、さすがに長くなるので割愛。以降は「Vietjo」さんでご覧いただきたい。

見てお分かりかと思うが、ベトナム政府も自治体も、そして民間も、防疫はもちろん関連する経済対策も差別問題も、早い段階で先回りしているという印象がある。中学生のマスク配布の動きもそうだが、これをニュースとして取り上げること自体もうまい(記事を読んで「お年玉多いな~」と思ったが)。国民が一致団結してコロナに立ち向かおうとしていて、まさにワンチームといった感じではないか。ベトナムを持ち上げる意図はまったくないが、素晴らしくない?これ。

そんな甲斐もあり…

 

2/18 新型コロナ、タインホア省とカインホア省は流行終息

2/20 新型コロナ、ベトナム国内感染者16人中15人が完治

>新型コロナウイルス感染拡大防止のため、全国の教育施設は2月3日から2月29日まで休校措置が適用されている。休校措置は3月末まで延長する可能性もある。この措置は新型コロナウイルスが流行している他の国々と比べ「やり過ぎ」ともされているが、保護者をはじめとする国民からは高い支持を得ている。

2/25 新型コロナ、ベトナム国内感染者16人全員完治―新規感染なし

 

現在、ベトナム国内においてコロナウィルスは終息に向かっているという。その対策に「(他国に比べて)やり過ぎ」という指摘もあるが、今となっては肯定的な意見の方が多いだろう。

実を言うと「終息」と聞いたとき、国内では保険制度が整っていないことから病院に行きたがらない人もいることを知ってため、検査を受けた母数がどんなものか、本当に終息しているのか、とうがった見方をしていた。だが、治療費が全額無料だったと分かった今となっては反省するばかりだ。コロナ対策において対照的なベトナムと日本。正直言ってこの早さがうらやましい。

また、先の引用にある通り、ベトナムでは2月3日という早い段階で、全国的に教育機関の休校措置がとられていた。この中には現地日本人学校やインターナショナルスクールももちろんふくむ。そのため、SNSでは子どものいる在住日本人の多忙ぶりを目の当たりにしていたが、英断だったのではないか。いや、各ご家庭におかれましては大変だろうけど。

そうしてベトナム国内での状況が落ち着きはじめた今、対策の照準は、世界でその不備に否定的な報道真っただ中の日本(人)に及ぼうとしている。

ベトナムの教室、撮影時はもちろんコロナ前。

 

日本人のベトナム入国に制限がかかりそう

ベトナムは現在、日本からの入国者、つまり日本人訪問者の大半に対して隔離を検討中

2/24 日韓からの入国者に隔離措置を検討、ハノイとホーチミン

>同市保健局はこの席で、日本と韓国から入国した外国人に宿泊施設または居住地での隔離措置を適用するほか、同2か国から入国したベトナム人に対しては国の隔離センターでの隔離措置をそれぞれ適用するよう提案した。

まだ検討中だが、個人的には、日本での終息の目処が不透明な状況下では決断される見込みが高いと見ている。その予想を強める材料もある。すでに実際、こんな動きが出ているのだ。

ベトナムは社会主義国家。傾向的に「国家権力が強くグイグイくる」ので、昼夜問わず突然ぞろぞろと公安が家を訪ねに来ることもある。私自身、突然深夜3時にノック、ドアを開けると申し訳なさそうなアパートの守衛の後ろに、無表情の公安が3人、ということもあった。

理由はもちろんコロナでなければ私が不法滞在者という訳でもなく、管轄エリアに日本人が来たのが珍しかったようで、たぶんに「懐をあたために」来たのだろうけど(察してください)、つまりはそういうことがある国だ。ちなみにビザを見せたら素直にお帰りになられました。

なので上記ツイートの状況はありありと想像できるのだが、「次のお達しがあるまで家の外を出歩くな」とはかなりハードなご注文…。だいたいこういうことに限って「次のお達し」(要するに報連相)は期待できないと私は考えているので、それも併せて悲惨だなと感じる。存じない方だが幸あれと…。で、だ。日本(からの入国者)に対する措置は、ベトナムだけに限らない。

「公共の場に行かないで」 日本からの入国者に要請―タイ

タイでもこのとおり要請が入っていて、ベトナムよりは幾分かソフトだが、少なくとも防疫においては「日本の信用は失墜したのだなぁ」とガクンと肩が落ちる次第である(措置自体はまったく否定しない)。ちなみにタイもベトナムも在住日本人の間では、「しばらく戻ってこれなくなるかもしれない」と、予定していた日本への帰国を見合わせるケースが増えている。

そんなベトナムだが、ではもともと防疫意識は高かったのか?というと、そんなことはない。むしろ個人的には「日本より確実に低い」と日頃から感じていたくらいで、だからこそ今回の動きには心底から驚いた。

「公共の場」とはあいまいな気もするが、こうしたところは確実にアウトだろう。

 

咳き込んでも自分も周りも気にしないベトナム人

一億人近い国民をひとくくりにはできないが、私の過去7年間のベトナム生活でマスク姿のベトナム人をほとんど見たことがない。いや、バイク社会のベトナムでは排気ガス除けのマスクは無尽蔵にあるが、風邪対策のマスクという意味で。あとK-POP的な黒いおしゃれマスクも除きます。

カフェで肺から気合の入った咳込みをしている人がいても、マスクもしなければ腕で(もちろん手の平でも)押さえることはまずない。実害があるのでさすがに文化の違いとして許容できず、正直なところそのたびにイラついていたくらいで、防疫意識という点で日本とベトナムは天地の差ほどあると勝手ながら思っていた。しかし実際はこのあり様だ。個人と国家での動きはまた違うものだが。

日本とベトナムではさまざまな条件が違うので単純比較はできない。それに我が国の対策には、ひょっとすると私のような素人には到底考えに及ばない意図がある…のかもしれない。しかし、結果が結果だ。感染の広がる日本、感染の広がらず終息へ向かうベトナム。この違いは何だったのか、自分にとって腹落ちする仮説が3つあるので聞いてほしい。

ホーチミン市を代表するおしゃれなカフェ(咳き込んでいる人がいた訳じゃない)

 

集団行動と正常性バイアスと事なかれ主義

正常性バイアスとは、災害心理学で使われる心理学用語。平たく言えば「非常時に自分にとって都合の悪い情報を無視したり過小評価すること」だ。心理学というアカデミックな領域につっこんで恐縮だが、話半分でいいから聞いてほしい。日本はよくもわるくもこの正常性バイアスが強い。よいケースが、災害による避難生活の配給などできちんと列に並ぶ。わるいケースが、まさしく今回のように「自分はかからないだろう」「意味はないだろう」とマスクをしなかったり外出を…と、言いすぎると自分の首を絞めるのでこのくらいで(今もマスクはつけてます)。

前者のよいケース(災害時に並ぶ)はベトナムのニュースで取り上げられる様子を何度か見た、論調は「我がベトナムも日本の高いモラルに学ぼう」というもの。だが結局は、誰も横入りはしないと思っているから列に並ぶ。どこかで自分はコロナにかからない、どこかで日本では広がらないと思っているから対策が甘い。だと思う。私はだが、秩序は日本人の本質じゃない、0か100かの集団行動で、それによる正常性バイアスで、それによる事なかれ主義だと思っている。

それが秩序に見えていたので褒めちぎってくれていただけで、今回は防疫という場面でおもいっきりマイナスに働いてしまった。その点において日本とベトナムは真反対の国だったと言える。

配給ではなくおみくじに並ぶ人たちだが/©馬面長伊奈

 

日本の都市はむき出し密集社会

東京は世界トップクラスの人口密度、23区で920万人前後。一方のベトナム、たとえばホーチミン市は900万人都市とじつは大差がないが、決定的に違う点がある。主たる移動手段が、前者は電車、後者はバイク(と車)。

その過密ぶりは似た者同士だが、周囲との距離感はまったく異なる。少なくとも私がベトナムでバイク運転中に「他人の咳が当たった」という経験は一度もない(もし当たったらドライヤー級だ)。車となればもう個室。運転手が、あるいは乗客が感染していたらアウトだが。

この違いは交通インフラの充実度、言ってみれば都市の発展度も関係してくる話なので、どうしようもないといえばどうしようもない。それならそれで、ベトナムは日本より感染しにくい状況にも関わらず、早急に対策を講じていたという言い方もできる。

 

意外とガス除けマスクが仕事している?

あと、これがもっとも「仮」説になるが、先述のとおりベトナムには排気ガス除けの布マスクがある。バイクが一家に一台以上という状況なので、ベトナム人なら老若男女だれでもマスクを持っていてもおかしくない。

マスクでウィルスは防げないとはいうが、一方で飛沫感染には効果があるとも聞く(なら防げるよね)。なら、排気ガス除けの布マスクでも意味はあるし、風邪用マスクが手に入らなかった人でもとりあえずそれで場をしのぐことはできる。仮説をまとめると、集団に合わせない、感染しにくい、マスクもある。そのうえで国が厳しく対策措置をとっている。明暗も分かれる訳だ。

もうひとつ言えば、ベトナムは昨年9月頃にハノイとホーチミンが大気汚染都市ワースト1位と3位に入ってしまっていた。当時は在住者の間でもうかつに外出できないという声をたくさん聞いたが、空気対策という点ではある程度の予行演習ができていた…のかもしれない。

いや、これは考えすぎか。

 

コロナ以降、日本の信用が一段下がる。そのときどうする。

そんなこんなで明暗の別れた日本とベトナム。ある在住日本人が口にした言葉が印象的だ。

「防疫においても日本は後進国になってしまった」

日本を煽るつもりはないが(そもそも私は日本人で日本びいきだ)、今回のコロナの一件は、日本の弱みをあぶりだすにはうってつけのリトマス紙だったと言える。試験で済むならいいけれど。実際に問題として、人には人の事情があり、経済活動もあり、また道理もある。人が密集する大都会をゴーストタウン化させるのはどこでだってむずかしい。しかしベトナムは、国民の移動制限を最小限に抑えてできることを片端からやっていったと思う。そんなベトナムの動きがうれしく、そんな日本の動きが悲しい、複雑な感情だ。乗り越えても、新たな問題も発生する。

おそらく今回をきっかけに、日本は今よりもう一段階、ベトナムの、世界からの信用を下げることになる。車…電化製品…アニメーション…などなど、戦後の先人たちが築き上げた信用という貯金は食いつぶしかけていて、ますます「日本人だから」といって高い下駄を履かせてはくれないようになるだろう。なにしろ今は怖がられてしまうくらいなのだから。悲しいかな。

そんな弱さを見つめて、個人の力をつけるなり、それぞれがコロナ以後の「人生の対策」を講じたいところだと私は思う次第です。

 

追記(2020/2/28 10:13)

思うところがあったので追記します。

この両国の対応措置の違いには、ベトナムが共産党一党独裁であることは間違いなくあります。だからこそ「やり過ぎ」とも言われるような措置を押し進められたし、その違いを無視して「だから日本はダメ」と言うつもりはありません。なので「弱み」と言うのだし、さらになによりも最大の弱みは、この局面においてすら「日本には日本の事情がある」という諦め志向です。コロナにもしなにか利点があったとするならば、それを考える機会を日本に(ひょっとすると韓国やイタリアなんかにも)与えたことではないか。措置の違い、ひとつひとつを見ていって、日本はこれができたのか、どうしてもできなかったのか、考えるところからはじまると私は思います。

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投稿者プロフィール

NAMEネルソン水嶋

ライター、編集者、ブロガー。2011年にベトナム・ホーチミン市に移住。以降、ダナンをふくめたベトナム国内各地でノマド生活を送る。ベトナムブログ「べとまる」運営、ブログ関連の賞を三度受賞。ベトナムで好きな街はダナン、最近はムイネーも気になっている。